経膣分娩で生まれる赤ちゃんは、膣を通ることにより産道でいろいろな細菌にさらされることにより免疫がつくと言われています。

帝王切開で生まれた赤ちゃんは、こうした恩恵が受けれないとのことで、出産後に母親の膣液を綿棒などでぬぐい、その膣液を赤ちゃんの口、目、皮膚に塗りつける(vaginal seeding)希望をするお母さんが多くいるとのことです。

これに対し、英国の医師らがエビデンスに欠けるということで考察しています。

このような膣液を塗る希望をするお母さんは、生まれた赤ちゃんの腸内細菌を整え、アレルギーに強くなる、肥満のリスクが減ると考えているからです。

これらの背景には、
1腸内細菌といろいろな疾患とに関係が見いだされた
2帝王切開児は、経産分娩児に比べ、肥満、ぜんそく、アレルギーなどの免疫疾患(アトピーなども)の発生率が高いと報告されたこと

このような報告で、経膣分娩児は、産道の膣液でいろいろな細菌によって免疫力がつくという仮説が立てられ、マスコミで報道されました。

帝王切開で産んだ自分の子どもには、健康状態で産んだ状態と同じような環境にしたいと、親心として心がくすぐられたのだと考えられています。ただ、医学的にはエビデンスが確立されておらず、医療従事者が勧める立場にもなりません。

そして、なにより逆に感染を引き起こす可能性もあるとして、母親が無症状で保有している連鎖球菌、ウイルス、クラミジア、淋菌などが膣を含めた産道にいる場合、赤ちゃんに重大な感染症を引き起こす可能性も高まります。

実際に、連鎖球菌は、大腸菌に並ぶ新生児の敗血症の主な原因になるし、クラミジア、淋菌は新生児の眼炎の主な原因となります。

妊婦では、血液検査での感染症は行われるものの、膣内の菌やウイルスの感染症検査を行っているわけではありません。実際に、連鎖球菌は、20~30%存在すると言われています。

このように、赤ちゃんに膣液を塗ることが広く普及すると深刻な問題を起こすことになります。
このような状況下では、医療機関内では安全性を確保できないため、院内では行わないようにして、院外で行うことを希望する場合には、上記のようなリスクもあることを十分に説明して、あとは自己責任で任せるとしています。

そのときでも、のちに、赤ちゃんがこのような感染症になったときには、親にこのような行為を行ったかも聞き、つつみ隠さずに話してくれるように信頼関係も築くとよいとされています。